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東京地方裁判所 昭和61年(ヨ)6353号 決定

債権者

清田直

右代理人弁護士

中山武敏

債務者

星野義明

右当事者間の昭和六一年(ヨ)第六三五三号仮処分申請事件について当裁判所は、債権者の申請を相当と認め、債権者に金五万円の保証をたてさせて、次のとおり決定する。

主文

一、債務者は昭和六一年八月一五日付時事日報二九四号を販売したり、無償配布したり、又は第三者に引き渡してはならない。

二、債務者の所持する右新聞の占有を解いて東京地方裁判所執行官にその保管を命ずる。ただし、右執行官は債務者の申出があるときには、右新聞第一面「葛飾区議会社会党幹事長清田区議会社脅し密室で一〇万円受理」及び同面記者メモ欄「自分に都合の悪い記事のせられたと、清田区議が名誉き損で訴えていた公判で『指名停止』と脅かされたと証言が飛び出した。その裏で、現金十万円を受け取る。金がらみで会社人事に不当介入したと批難されても弁明出来まい。」の記事並びに同第三面「虚勢くずれる清田区議『指名停止』と業者脅す地裁公判で事実続々の標題、その本文」を抹消させたうえ、その保管を解いて債務者に引き渡し、その販売等を許すことができる。         (裁判官畔栁正義)

申請の趣旨

〈主文同旨〉

との仮処分命令を求める。

申請の理由

一、債権者の地位

債権者は現在、葛飾区議会議員であり、昭和三八年以来現在まで六期当選している。

右区議会では、財政委員長、文教委員長、総務財政委員長、副議長等の役職を歴任した。

債権者は日本社会党に所属し、同党葛飾支部書記長、同委員長を歴任し、現在、葛飾区議会日本社会党議員団幹事長の地位にある。

二、債務者の地位

債務者は時事日報の発行責任者であり、右時事日報は債務者個人で経営する時事日報社で年平均六回発行する「新聞」であり、配布先は、葛飾区役所八五部、葛飾区議会五〇部、建設業界等であり、三、〇〇〇部以上は配布されていると推定される。

三、被保全権利と保全の必要性

債務者は、昭和五八年一〇月一五日付時事日報第二七八号で「清田社会党区議が会社人事に不当加入」という標題のもと、債権者が全く関係のない会社の人事問題に不当に介入し、会社社長から金一〇万円を恐喝しようとしたとの印象を与える記事を掲載し、右新聞を大量に配布した。(疎甲二号証)

そこで、債権者は債務者を被告として、御庁に、謝罪広告等請求の訴えを提起し、右事件は、現在、御庁民事第一七部(御庁昭和五九年(ワ)第一三二五〇号)に係属審理中である。(疎甲三号証、同四号証)

別紙目録表示の記事(以下本件記事という)にある「清田区議が名誉き損で訴えていた公判が六月一六日午後一時、東京地裁で開かれた。この日はA社社長が証人に立ち『清田区議会は大声で区役所から指名停止にするぞ』と脅かしていた事実をのべた。

さらに区議会社会党控室で、訪問したA社社長に対して、『解決のため二十万円位出したらどうか』と持ちかけたがA社長にはまつたくその意志がなかつた。

だがこれ以上、清田区議との問題がこじれてはと思い、持ち合せの現金十万円を差し出すと、清田区議は『イヤーイヤー(と断りながら)どうもどうも』と手を振りつつ受け取つた。……」というA社社長は、不二興産株式会社代表者代表取締役寺島徳次である。

昭和六一年六月一六日の公判では債務者(被告)本人尋問が行われ、右寺島徳次の証人調べは同年七月一四日に実施された。

右証人尋問調書(疎甲五号証)で明らかなように、債権者が右寺島から現金一〇万円を受け取つたという証言は全くないし、事実無根の捏造記事である。

右に関連する同人の証言内容は次の通りである。

被告代理人(主尋問)

いやいや私が聞いているのは清田さんとお会いになつたときの状況をお聞きしているんです。

(答)これは、会社の営業部長の横田と、それから葛飾清掃の社長さんと三人でお会いして、わしのほうでも言葉の乱暴な言い方をしたということについてお詫びかたがたのご了解をいただいてお会いできるようになつたからという近藤さんのお話のために先生のところにお電話をしまして、そして先生のところに行くと言つたら、区役所の社会党の控え室にきてくれというわけで区役所に行つてお話をしたわけです。

そのお会いになつたときのお話の内容はどういうことだつたかと聞いているんです。

(答)そのときには葛飾清掃の近藤さんと横田氏と話しがついたから。

八月八日のときはもう話がついた後ですか。

(答)そうなんです。

そのとき近藤鏡一さんの生活費のことについて何か話が出ませんでしたか。近藤鏡一さんの生活費をこれくらいやつたらどうかという話は出ませんでしたか。

(答)お会いしたときには二〇万円くらいというお話はございました。

それは何のお金ですか。

(答)彼は体も弱く、仕事もできないから生活に困つておるからというお話だつたんです。

それに対してあなたのほうは何と言つたんですか。

(答)これは会社の金を持ち出すことですから私個人じや決められませんし、そのときには出しませんと。それから、わしのほうでは、もう一〇月で辞めた者を一一月分の給料を払い、退職金を払つて、そして受領の印鑑をもらつておるのに、その金を出しておつたら、やはり四、五百人の人間にそういうようなものが段々伝わつて、そういうことをされたんじや困るから、それはお断り申し上げました。(速記録二五頁四行目〜二七頁一三行目)

と証言しているのであつて、同人が、現金一〇万円を手渡し、債権者がそれを受取つたとの本件記事は全くの捏造である。

債務者は、右事件において答弁書(疎甲六号証)準備書面(疎甲七号証、同八号証)においてもかかる主張は一切なしていないし、債務者(被告)本人尋問においても、かかる供述はなしていない。(疎甲第一〇号証)

同人は、右本人尋問(昭和六一年六月一六日第九回公判)の際にも「寺島社長は『実はこれから清田のところに領収書なしで一〇万円を届けに行こうと思うんだ』と聞いたわけなんです。で『それはまた、何でですか。』と聞いたら、それのほうがいいと思うと、たぶん通ると思うよと、そういうふうに聞いたものですから、『そんなことをしたらかえつておかしいんじやないの。』と社長に言つたわけです。」(速記録一五頁十二行目〜十六行目)

と供述しているのであつて、債務者の「会社脅し密室で一〇万円受理」した旨の本件記事は、故意に事実を捏造した虚偽の内容であり、債権者の名誉を著しく害するものであるし、その違法性は極めて高度であり、民事上の不法行為は勿論のこと、刑事上の名誉棄損罪にも該当するものである。

債務者は本件記事が、債権者の名誉を著しく害するものであることを熟知のうえ、既に債務者の定期購読者に配布し、現在までに約三、〇〇〇部の配布を終えたものと推定される。

それのみか、債務者は本件記事を三万部印刷し、債権者の選挙区の支持地盤である葛飾区新小岩、西小岩等の朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、サンケイ新聞の各販売店一六店に依頼し、右各紙九月二日朝刊に本件記事を折り込んだうえ、右各紙購読者に配布しようとしていたが、配布寸前に、各新聞社、広告代理店各販売店との協議のうえ、各販売店の判断によつて、債務者の折り込み配布の依頼を拒絶することになり、九月一日の午後十一時半頃、新聞広告折り込みから本件記事の抜き取り作業が終了したのである。(疎甲十一号証)

右事実からも明らかなように、債務者の本件記事の印刷・配布は、公益を図る目的でないことは明白であり、債権者の信用を失墜させ、来年四月に予定されている統一地方選挙での債権者の落選をねらつた卑劣な目的のものである。

しかも、債務者は、本件記事が掲載された時事日報第二九四号は、その定期購読者には既に配布されているのであるから、ことさら大量に印刷し、購読者以外に配布しなければならない必要性は全くないのである。

九月二日の本件記事三万部の配布は一応中止されたが、債務者が再度本件記事を印刷のうえ、配布をなす蓋然性は極めて高い。

現に前記昭和五八年一〇月一五日付時事日報第二七八号も債務者の同業者であり、債務者と共同歩調をとつている申請外渡辺かつしかの発行する政経新聞昭和五九年四月一日付第一〇一七号に原文のまま引用され右新聞は大量に印刷され、葛飾区西新小岩、同区東新小岩一帯の民家の郵便ポストあるいは直接建物内に投げ入れられていたのである。(疎甲十二号証)

そればかりか、債務者は、前記時事日報第二七八号の記事についての前述の謝罪広告等事件が係属中であるにもかかわらず、自己の主張を昭和六〇年二月一日付時事日報第二八六号に一方的に記載し、配布しているのであり、(疎甲十三号証)、債務者の債権者に対する誹謗、中傷の攻撃は常軌を逸した執拗なものである。

虚偽の事実を記載した本件記事が、さらに印刷・配布されれば、債務者の名誉は棄損され、選挙民の信頼は失われ、回復困難な重大な損害を被ることは確実であるし、本件記事の印刷、配布が禁止され、本件時事日報第二九四号が執行官に保管されたとしても、本件時事日報の定期購読者には既に配布されているのであるから、債務者には何らの損害も発生しないのである。

債権者は本件記事についての本訴を準備中であるが、本件記事の印刷・配布の差止め、執行官保管を前述したように緊急になす必要があり、人格権としての名誉権に基づき、本件処分命令の申請をなすものであり、本申請を速やかに認められる決定を求める次第である。

疎明方法〈省略〉

別紙目録〈省略〉

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